キーパーソン・インタビュー
アデノウイルスを治療するこの薬についての
驚くほどの情熱が再燃しました
骨髄移植・免疫不全 メディカルディレクター 小児科教授
マイケル・グリムリー 先生
質問1.先生のご専門である造血幹細胞移植後のウイルス感染症治療についてお話しいただけますか。
骨髄移植を受けるために化学療法や免疫療法を受けた患者や臓器移植を受けた患者は、重度の免疫不全に陥っており、ウイルス、特にサイトメガロウイルス(CMV)、EBウイルス(EBV)、アデノウイルス(AdV)、BKウイルス(BKV)などの二本鎖DNAウイルスが再活性化したり感染したりする危険性が非常に高くなります。これらのウイルスは、移植後における罹患や死亡の主な原因となることが多く、特にアデノウイルスは、現在承認されている有効な治療法がないため、死亡の主な原因となっています。残念ながら、私たちのセンターでは、年に1人から2人の患者が播種性アデノウイルスによって死亡しています。
質問2.有効な治療法がないアデノウイルス感染症について、どういった処置や治療をされているのでしょうか。
現在シドフォビルという薬が使われていますが、アデノウイルス患者には最小限の効果しか示しません。効果がかぎられていても使用せざるを得ませんが、腎臓にダメージを与える可能性があります。ただ、アデノウイルス感染症に対する治療法の選択肢がないため、腎毒性のリスクあってもアデノウイルスの治療に使用しています。
私たちはまた、免疫系を低下させる薬剤を使用している患者さんにおいて、これらの薬剤を減量する場合がありますが、その結果、心臓や腎臓の移植が拒絶される場合もあります。あるいは、骨髄移植を受けた患者さんの場合、免疫抑制を低下させると、移植片対宿主病(GVHD)を発症する可能性が高くなり、生命を脅かす合併症を引き起こす可能性があります。
質問3.サイトメガロウイルスの治療についてはいかがでしょうか?
現在、FDAが承認したサイトメガロウイルス治療薬や予防薬は4種類あり、これらの薬は一般的に有効性がみられますが、サイトメガロウイルス治療薬に対する耐性を獲得する場合があります。また、これらの薬には血球数の低下や腎臓障害などの副作用があることも問題となる場合もあります。しかし、アデノウイルスと比較して、サイトメガロウイルスにはより多くの治療オプションがある一方で、サイトメガロウイルスは移植患者や免疫不全患者で再活性化することがより一般的であるため、サイトメガロウイルス感染症への対処は依然として進行中の課題であり、新規サイトメガロウイルス治療薬が追加されることは良いことだと思います。
骨髄移植を受けた患者の約2/3がサイトメガロウイルスの再活性化や感染を経験するため、治療が必要になります。たとえ80~90%の患者が現在の薬でうまく治療できたとしても、複数の薬が必要になったり、薬が効かなかったりする患者もかなりいます。
一方、アデノウイルスに関しては、有効な治療法は現在ないため、アデノウイルスに感染した患者は、サイトメガロウイルスに比べ、生命を脅かす合併症を発症する可能性が高くなると考えています。
質問4.ブリンシドフォビル(BCV)をお知りになった経緯はどのようなものでしたでしょうか?
私は2011年2月にBCVの経口製剤で最初の患者を治療して以来、BCVの試験研究に携わってきました。当時はCMX001と呼ばれ、アデノウイルスにおけるBCVの経口製剤を別の会社が所有していました。BCVはシドフォビル(CDV)の脂質抱合体であり、経口投与が可能なものです。
当時BCVを所有していた会社で発見したのは、経口剤はアデノウイルスの治療にとても有効でしたが、残念なことに副作用が大きく、患者の腸粘膜を傷つけて下痢や腹痛を引き起こし、安全性が制限されていました。。
そこでシンバイオ社は、免疫不全の抗ウイルス剤患者に対する注射剤BCVの静脈内投与について検討するため、用量漸増試験を開始したのです。
質問5.ATHENA試験で認められたPOC※
試験開始前に入手できたデータでは、注射剤は経口剤の10倍の効力があり、健常な被験者には胃腸、骨髄、腎臓の毒性は見られる一方で、BCVの経口剤に見られるような胃腸の副作用がなく、アデノウイルス感染症の治療が可能になることが期待される非常にエキサイティングな薬剤でした。
※POC(Proof-of-Concept):新薬の研究段階で構想した薬効を実際の非臨床試験や臨床試験で確認することをPOC/プルーフ・オブ・コンセプトという。
質問6.ASH2023のプレゼンテーション
この研究成果は、BCVの忍容性が極めて良好であることを示し、私の予想を大きく上回るものでした。BCVの静脈内投与を受けている患者さんには、下痢、肝毒性、骨髄毒性、腎毒性は発現していませんでした。あらかじめ予想されていた通り、最初のコホート1では0.2mg/kgを週2回投与したところ、忍容性は良好でしたが、アデノウイルス感染症に完全には有効ではありませんでした。しかし、コホート2、特にコホート3では驚くべき有効性が認められ、コホート3の患者全員でアデノウイルスが検出されませんでした。これ以上の喜びはありません。
質問7.実際にプレゼンテーションをされたときの聴衆の反応を教えていただけますか。
聴衆の反応は、この薬の有効性と安全性に関して信じられないほど熱狂的で、「どうすればこの薬を入手できますか?」など、多くの質問を受けました。2023年のASHでの発表で、アデノウイルス治療薬に対する熱意が再燃しました。
質問8.グリムリー先生のプレゼンテーションの話をお聞きになったドクターがBCVにアクセスしたいということで、コンパッショネートユースプログラム※に参加される事もあますが、その点について先生はどう思われますか。
企業が承認取得への道を進める一方で、この薬を必要とする医師が世界中の医療機関で利用できるようにする目的のコンパッショネートユースプログラムは素晴らしいと思います。私は、この薬が安全で効果的な薬であることをできるだけ早く規制当局に証明し、市場に投入できるよう努めてほしいと考えています。多くの規制機関では、コンパッショネートユースのデータは受け入れられないことが多いため、近い将来、世界中の患者がこの薬にアクセスできるようにするためには、臨床試験進め、承認を得ることが最善の方法だと思います。
そして、今、ATHENAの研究成果によって、アデノウイルスに対する安全で効果的な治療法を開発していることについて、非常にエキサイティングだと思っています。
質問9.2024年3月には Tandem Meetings でもプレゼンテーションされると思いますが、その発表内容について概略を教えていただけますか。
Tandem Meetingsはサンアントニオで開催され、私たちはATHENAのコホート1、2、3のデータレビューを発表する予定です。安全性データでは、薬剤の安全性と忍容性についてお話し、有効性データでは、薬剤投与開始後4週間におけるアデノウイルスのクリアランスを報告します。これが、私のプレゼンテーションの主題です。
12月に開催されるASHは非常に大きな国際会議ですが、移植に焦点を当てたものではありません。そのため、今度の発表の聴衆はすべて移植専門医で、アデノウイルス感染症患者をケアしている医師たちです。ですから、非常に強い監視人と熱意をもっていただけると予想していますし、どのようにしてこの薬を承認するのか、どのくらい早く承認できるのかということに焦点を当てた質問がたくさん出ることも予想しています。
アデノウイルスに感染すると、健常人では耳の感染症や風邪のような上気道炎を起こします。アデノウイルスに感染すると、胃腸炎や胃炎を引き起こし、アデノウイルスは体内で排除され、そのまま体内に留まります。
免疫が抑制されると、アデノウイルスをコントロールできなくなり、アデノウイルスが再活性化し始めます。そのため、免疫不全状態の場合、アデノウイルスは腸管内で再活性化し、その数が増えるにつれて便中のウイルス量が増え、下痢を起こすようになります。もし便中ウイルス量が増えた時点で安全な薬があれば、アデノウイルスが生命を脅かしたり、問題になったりするのを食い止めることができるというものです。
質問10.今後のアデノウイルスやその他の感染症の発展について、どのようなことを期待していますか?
私はBCVの開発初期段階から13年の間、携わってきました。この薬がHSV、AdV、EBV、BKV、HHV-6、CMVといった二本鎖DNAウイルスに高い効果を示すのを見てきました。BCVが効く可能性のあるウイルスはたくさんあると思います。最も危険なウイルスはアデノウイルスで、治療法がなく多くの患者にとって致命的であるため、期待できると私は考えています。
質問11.シンバイオ製薬について
数年前にオーランドで初めてお会いして以来、彼らは素晴らしい仕事をしてくれています。BCVが規制当局に承認されるよう、実りある議論が継続され、協力し合えることを大いに期待しています。