キーパーソン・インタビュー
その思いを込め、情報提供をウェブとリアルで実施
菊池 健治
質問1.2021年を振り返っていかがでしたか。
2021年は、まさに自社販売が始まる年で、これまで販売を全てエーザイさんに行っていただいていたものを自分たちで販売することになりました。自ら販売するということは、適正使用に必要十分な情報提供活動を行うことによりトレアキシン®の適正使用を推進することに他なりません。
情報提供の質が落ちたとか、そもそも情報の提供がないとか、そういうことがあってはならないと考え、情報提供の在り方を見直しました。そこでわれわれが意識したのは、適正使用に必要な質の高い情報をしっかりと届けることと、特に抗がん剤では副作用が必ず起るので、適正使用のために副作用マネジメントに関する情報を先生方にお伝えすることを徹底しました。トレアキシン®が適正に使用されることにより、患者さんにとって長期間の生存の可能性というベネフィットがあると考えます。その点を意識して、しっかり活動していこうと自販を始めた当時は思っていましたし、今も同じ思いです。
一方で、コロナの影響により、病院の訪問やドクターとの面談が頻繁にできない状況になりました。それまでは病院に行って待っていれば会えたのですが、先生方からすると、アポイントの依頼があっても、会う必要がない人とは会わなくてもよい状況になったということであり、面談するMRをセレクトできる状況になりました。この点がコロナの一番の大きな影響だと思います。一番大事なことは、患者さんのベネフィットを念頭に置いて適正使用に関する情報を提供するんだという思いを伝え、しっかりと理解してもらうのが、一番大事だと考えています。その点を念頭にしっかりとTM(トレアキシンマネージャー)さんには情報提供に努めてもらいたいと思っていました。
質問2.RI(急速静注)投与が承認されたことについて、医療現場に伝えたいことはどんなことですか。
抗がん剤の治療を受けている患者さんは普段通りの生活を送りながらがん治療を受け、自分らしく生きていきたいという思いが最上位にあります。もちろんがんを治したい、治癒したい思いが一番ですが、濾胞性リンパ腫という血液がんは治らないがんの一つです。治らないがんであるが故に、治療を受けながらも自分らしい生活を送りたいということが非常に強いニーズになります。
RI投与によって投与時間が60分から10分に短縮できるということは、単純に時間を縮めることだけではなく、病院にいる時間が長かったり、待ち時間が長かったりという面倒だなという思いを軽減できる可能性があります。そんなちょっとしたことが患者さんの治療に向かう気持ちをサポートできると考えています。治療は嫌だ、面倒くさいという患者さんの気持ちを少しでも軽減して、前向きに治療に向かっていただけるような、1つの剤形、1つの投与方法になると思っています。そういう点からも一日も早く10分間投与による治療を浸透しなければいけないと考えています。
質問3.トレアキシン®の再発・難治性DLBCL(びまん性大細胞型B細胞リンパ腫)の適応拡大に伴う営業活動はどのように行われましたか。
再発・難治性のDLBCLの治療というのは非常に難しくて、これまでもいろいろな薬剤がチャレンジしてきたと思いますが、なかなか新薬や新しい治療法が承認に至らなかったという状況でした。トレアキシン®は以前から再発・難治性のDLBCLの適応追加に対してチャレンジをしてきておりましたが、社員の思いと治験に参加いただいた多くの施設、医師のご協力により、ようやく臨床の場でお使いいただけるようになりました。あわせて、ポラツズマブ ベドチンという薬剤が同じ時期に同じ適応症で承認となり、ポラツズマブ、リツキシマブ、ベンダムスチン併用療法(P-BR療法)も臨床の場でお使いいただけるようになりました。2つの新しい選択肢ができたことは治療の担う医師にとっては、とてもインパクトがあり、それ故に、たいへん期待も高かったと思います。それに応えるために、われわれの言葉は単純ですけれども、使い方や患者さんへのベネフィットを、一生懸命しっかり伝えていこうと考えました。
ただ、一方でコロナ禍もあり、営業のスタイル、方法、情報提供の形がだいぶ変わってきた、製薬業界として変わってきた時期なので、ただ単純にTM(トレアキシン®マネージャー)の面談、ウェブでの面談などだけに頼ると、やはり数は稼げないというか、なかなか届くものも届かないという状況でした。そのため、例えばウェブ説明会を毎週何曜日と何曜日と決めて、4週間ずっと8回連続シリーズでやりますと。それで、流す内容は全部同じなので、どこかで必ず聞いて、ぜひこの治療法について検討してくださいという企画とか、あとは、治験に参加された先生方がBR療法、P-BR療法を、どういう位置づけで、どういった価値を見いだして使っていくかをお話しいただく形で、DLBCLの適応追加の記念講演会を、十数回、毎週、毎週、これでもかというぐらい、先生たちからは「またやるの?」といわれるぐらいやりました。
そのおかげで、やはり聞きたいときに聞けるという状況になりましたので、一気に先生方に情報が広まって、処方につながったのかなと考えています。
質問4.液剤の導入と切り替え、DLBCLへの売上の増加等で最終的に営業利益を達成したことを、マーケティングや営業の立場からひと言お願いします。
黒字化というのが会社として今年一番の大命題だったので、達成できて正直ほっとしました。液剤への切り替え、それからDLBCL治療へのトレアキシン®の浸透、既存の疾患であるiNHL治療におけるトレアキシン®の適正使用を進めることに注力した結果が、トレアキシン®の売上に反映されたものだと考えています。特に凍結乾燥製剤の出荷調整の発生により、一日も早く液剤への切り替えを行っていただく必要に迫られた際、本当に多くの医療機関の医師、薬剤師の方にご協力いただいて、液剤への切り替えを行うことが出来ました。感謝の一言しかありません。
質問5.自販体制を進める上でのオンライン営業活動、また学会や講演等での気づきやエピソードなどを聞かせてください。
製薬企業の情報提供活動というのは、製品の情報を伝えて「こんな効果が認められています」とか「こんな副作用が出るので注意してください」という情報提供が中心になります。トレアキシン®は、これまで10年間広く使われていて、多くの先生方は一通りの使い方をご存じですが、適正使用に関する情報提供が重要であることは変わりません。適正使用を推進するにあたって、製品の効果や副作用に関する情報を単に伝えるだけの内容ではなく、患者さん視点、薬剤師さんや看護師さん視点で適正使用に必要な情報を届けることを考えたり、一つの疾患の治療における課題をテーマにしたりと内容に工夫をこらして講演会の企画を考えています。テーマを明確にした講演会の内容は、多くの医療従事者の方から比較的評価をいただいていると感じています。
2021年度の学会に対する活動としては、日本造血細胞移植学会(現在の日本移植免疫療法学会)、リンパ網内系学会、日本血液学会という三つの学会におきまして共催セミナーの開催をさせていただきました。また、シンバイオとしては液剤が発売されたということもあり、日本臨床腫瘍薬学会におきましても共催セミナーの開催をさせていただきました。
コロナ禍での学会の開催が続いていますが、多くの学会がハイブリットでの開催となっており、学会参加の形に多様性が出てきましたので、それに対応することが求められていると思います。その点を踏まえた企画を考えていかなければいけないと感じています。
質問6.MRによる情報提供から、医療従事者向けのウェブサイトやオンラインセミナーや学会による情報提供へと、プロモーション活動は変わりつつあるのでしょうか。
あまり多くの会社さんのことを存じ上げているわけではないですが、多くの製薬会社では医療従事者向けのホームページを作りMRというリソースもたくさんかけている製薬会社はたくさんあると思います。デジタルの活用と人を介したリアルな情報提供の融合で大切なことは、人を介した活動がきちんと出来ていなければ、デジタルを介した情報提供は活きてこないとシンバイオでは考えています。医師がMRと面談を重ねていくなかで信用できるMRと評価されると、病院への訪問が厳しくなった状況下でも、このMRならweb面談でも会いたいとなりますし、簡単な部分はウェブサイトで確認して、本当に必要なところだけ、そのMRとの面談で確認しようとか、そういうふうになっていくと思っています。もちろんデジタルを介する情報提供のコンテンツの内容を充実させていくことも重要です。製薬会社の情報提供の在り方としてデジタルだけで全部完結するわけではないと思いますが、一方で、人を介した情報提供だけの時代には戻ることもないと思います。それらのアプローチをどう使い分けていくかを多くの企業が模索しているところだと思いますが、シンバイオもそのうちの一つの会社ではありますが、少数の体制からスタートしていますので、デジタルを介した情報提供をより積極的に導入することが容易だったのかなと感じています。
質問7.マーケティング部の責任者として、トレアキシン®で治療している患者さん、ご家族に対する思いはいかがですか。
私は2015年に入社したのですが、こんなにいい薬がきちんと患者さんに届いていないという状況を聞き、何とか1人でも多くの患者さんにトレアキシン®という薬剤を届けたいと思って入社しました。その思いは今も変わりません。
トレアキシン®は効果が高いことはもちろんですが、治療時に起こる副作用がこれまでの治療と比較して非常にマイルドであるという点です。抗がん剤治療をすると、よく脱毛があったり、気持ち悪くなったりして治療に嫌になってしまうのですが、そういった患者さんが嫌がるような副作用が、マイルドで発現頻度も少ない点が患者さんにとってベネフィットだと思っています。
普段の生活を送りながらがんと闘っていく、向き合っていく時に、一番マッチした治療だと思っていますので、トレアキシン®のベネフィットを一人一人の患者さんに届けるという気持ちで、これからも頑張っていきたいと思っています。
質問8.マーケティング部の責任者として、株主への皆さまへ一言お願いします。
これまでシンバイオ製薬は、本当にたくさんの人に支えられて事業を継続できていて、そんな皆さんに応えるためには、しっかりとトレアキシン®を患者さんに届けことを大切にしたいと思います。その活動が薬剤の処方につながり、会社の業績につながることになり、これまで支えてくださった多くの医療従事者の方々、また株主の皆様の思いに応えることになると思っています。
今、自販体制も整い、適正使用の推進のために情報提供に努めることで全社の黒字化が達成できましたが、一人でも多くの患者さんにトレアキシン®をお届けすることが医療従事者、株主の皆さんの思いに応えることであるということは忘れずに、日々活動していきたいと思っています。