キーパーソン・インタビュー

JAFCO Investment (Asia Pacific) Ltd President & CEO 渋澤 祥行 様
開発リスクと金融危機を乗り越えての
黒字化達成に最大の敬意を表したい
JAFCO Investment (Asia Pacific) Ltd President & CEO
渋澤 祥行 様

質問1.シンバイオ製薬との関わりについてお聞かせください。

ベンチャー企業への出資をなりわいとする当社ジャフコグループが、シンバイオ製薬に接触させていただいたのは、創業間もない2005年に遡ります。当時はすでに、日本国内においても、バイオベンチャーが多く立ち上がり、上場実現の事例も発生するという、まさに勃興期といわれる時期でした。当社におきましても、ベンチャー投資の主要な投資領域として、ライフサイエンス投資を位置づけ、製薬会社出身者も含めた専門の投資チームを設置して、有望ベンチャーの発掘にいそしんでいました。
そういったリサーチを通じて、シンバイオ製薬を知ることになり、結果創業1年後に10億円という、当時としては一度の出資金額として、かなり大型の出資の実行に至りました。
最初の接触にあたりましては、米国において歴史に残るバイオベンチャーのアムジェンジャパンの元社長で、ハーバード大学出身という吉田社長のキャリアに、期待と緊張感が第一にありましたが、
実際にお会いした印象は、ある意味で予想どおりの、グローバルの経営力、事業構想力をまず感じました。そして、事業に対する高い志、骨太の理念、がものすごく強く心に残っています。
同時に、シンバイオ製薬が掲げる事業構想と、私たちのような投資家との間には、バイオテック事業の本質やそのリスクについて、いまだに大きなギャップがありますが、米国をはじめとした世界のダイナミズムを知る吉田社長としては、自社の成長シナリオを投資家に正しく伝え、共感を得て同意を得るといったことに相当ご苦労されたと感じています。
今、振り返れば、投資家サイドにも成功体験がまだ十分でなく、ライフサイエンス領域の事業化に、企業家の方々と共に、懸命に取り組んでいた時期といえるのではないかと思います。

質問2.出資の決め手やイメージされた将来像についてお聞かせください。

出資における決断は、大きく3つあります。1つは市場性。2つ目にビジネスモデル、会社のコアと言い換えてもいいのですけれども、3つ目に経営陣です。がんや血液という深刻であり、大きな市場のなかでの空白の治療領域、つまり、希少疾患から事業をスタートする。海外ですでに薬として実用化され、多くの患者さんの尊い命を救いながら、日本では開発すら進んでいないという対象をターゲットとする。そのことで、初期の開発リスクを低減し、早期の承認と高い販売シェアの獲得を図る。さらに承認後は、適応拡大による、いわゆる横展開を進める。自社開発と自社販売までのバリューチェーンを自ら構築することで、高い開発品質と医療現場との接点を維持して、本当に患者さんが必要としている医薬の情報と直結して、ともに事業展開を図る。
この事業モデルを支える専門性と、いわゆる目利き力を備えたワールドクラスのプロフェッショナルチーム、こういったシンバイオ製薬の事業構想に、私たちも本格的な日本発のスペシャリティファーマの誕生を確信しました。まさに、日本にもこういう時代が来たんだという感覚でした。

JAFCO Investment (Asia Pacific) Ltd President & CEO 渋澤 祥行 様

質問3.バイオベンチャーが自ら新薬承認を取得し、販売や流通まで手掛けることの困難さ等について、ベンチャー投資家の視点でどのようにお考えですか。

いわゆるバイオ事業には、医薬としての承認を得れば、世界に需要があり、それは患者数や薬価等のデータに基づいて、一定程度定量的に計算、予測が可能という特徴があります。他方、開発過程では、多額の資金を必要として、初期には大型な赤字を伴います。この「死の谷」といわれる事業化までの開発リスクというのが、他の事業に比べて一般的に高いといわれています。
このたびシンバイオ製薬が成し遂げた、新薬承認と製品売上による黒字化は、非常に大きなマイルストーン(節目)といえると思います。創業から今日に至る15年超の歴史を振り返ったとき、リーマンショックという世界的な金融危機をはじめとしたいくつも波がありました。実際、私が最も深くシンバイオ製薬に関わっていた頃は、資金環境が世界的に最も厳しい時期であり、あらゆる投資家がリスク回避に走るなか、世界中の事業家が投資家の堅い財布のひもの資金を奪い合うという状況でした。
私たちジャフコも、投資家の資金を集めてファンドを組成しているので、投資家がリスク回避に走るなか、同じような境遇にあったわけです。
シンバイオ製薬の歴史には、こういったバイオ事業の持つ特有の開発リスクのみならず、金融危機に端を発した資金調達とのまさに戦いがあったといえると思います。資金調達が不調であれば、時間がずれます。時間がずれれば、事業計画に修正が必要となります。ここは正直、本当にタフでした。私たちも他の投資家の賛同を得ながら、合計で3回、追加で出資を行いまして、こういった時期をシンバイオ製薬の皆さんとともに乗り越えたと思っています。正直、黒字化までの時間軸のズレというのが、おそらくこれまでの歴史のなかで、最も大きな困難だったと考えています。

質問4.シンバイオ製薬と他のバイオベンチャーとの違いや優位性等について、どのようにお感じですか。

大きな事業には、その事業が何のために存在するのかという、社会に対する大義が必要だと思います。同時に、時代の変化に合わせた柔軟な順応性、進化する力も求められる。そして目先の事象でぶれない軸が不可欠です。シンバイオ製薬には、創業以来一貫したこのぶれない理念と軸を強く感じています。
事業の進め方には、とりあえずやってみるとか、できることからやってみるとか、そういうアプローチもあるでしょう。ただ、しっかりと理念を掲げて、設計図を構想し、未来から逆算して、戦略的に事業を推進するというアプローチもあります。どちらが偉大な事業を創造できるのか、これは最終的には、歴史が証明するものでしょうが、このアプローチの違いが、シンバイオ製薬の最大の特徴なのではないかと、長くお付き合いして、非常に強く感じています。

質問5.2021年の黒字化達成、そして第二の創業について、一言お願いします。

吉田社長をはじめとした、シンバイオ製薬に関わる全ての役職員の方々、並びに全てのステークホルダー、株主の方含めて、今回の黒字化達成ということに関し、最大の敬意を表したいと思います。併せて、シンバイオ製薬さんがおっしゃっている、これから「第二の創業」だという決意に対して、渾身のエールを送りたいと思います。

質問6.販売・流通体制を自社で持つことの意義をどうとらえていらっしゃいますか。

JAFCO Investment (Asia Pacific) Ltd President & CEO 渋澤 祥行 様

シンバイオ製薬の事業モデルというのを見つめ直したときに、自社開発、自社販売というのが、ひとつの特徴になると思いますが、そういったバリューチェーンの一部を分業していくというやり方も、他の業界も含めて事業モデルとしてはあり得るというなかで、出資をするときにも、どちらが適切なのかというのは、われわれ自身も、私自身も、すごく考えたのが記憶に残っています。
正解としては、どちらもあるのだと思いますが、開発品の導入から開発、承認のプロセスを経て、販売まで行うこの一連のバリューチェーンを自社で構築することによって、一貫した事業体制ができると同時に、医療現場や患者さんの声というのを、直接吸収できます。それを製品開発や導入品の検討に有機的にフィードバックしていく。この一連の仕組みというのが、シンバイオ製薬の強みなのではないかという結論に当時至り、出資をしました。
実は、この話を吉田社長と何回か議論をしたことがあったのですが、非常に印象に残っているのは、もともと空白の治療領域という分野で新しいタイプのバイオベンチャーを創業しようと思ったきっかけというのが、医療現場からヒアリングした、空白の治療領域の存在だったと。単純に事業モデルとか、収益性の高さとか、そういう話だけでなく、本当に困っている患者さんを助けたいというところが事業の起点になっていたというのは、私にとっては、非常に印象的であり、ともに歩もうという決断をした大きな理由となっています。
経営者としてのプロフェッショナリティーと、ひと言でいうと、崇高な理念みたいなところが、非常にバランスがいいというか、パッション、ビジョン、エグゼキューションの3拍子が揃っているところを僕はすごく尊敬しています。

質問7.吉田社長の人となりやシンバイオ製薬について、特に印象的なことは何でしょうか。

バイオベンチャーというのは、ライフサイエンスなので、アカデミックな専門性はもちろんですが、社会のニーズをきちんととらえるマーケティング力も必要です。一方で、メガファーマや、導入を図る際のシーズを持っている会社との折衝といった部分は、まさにM&Aと変わらない、激しいネゴシエーションが必要となってきますし、ひいては資金調達、ファンディングに関しては、まさにインベストメント・バンカーなり、金融プレーヤーとしての手腕も問われます。
ですから、こういう一般にバイオベンチャーというのは、当然人の命に関わる事業なので、そこに崇高な理念やディスプリン(discipline 規律)を求められるわけですけれども、実際のエグゼキューション(execution 実行)のなかでは、今申し上げたような、いくつものプロフェッショナリティーを持ち合わせた総合格闘技みたいな、これは吉田社長、シンバイオ製薬さんとの出会いのなかで、私は最も強く体感しましたね。しかも、それがリーマンショック後の金融収縮が起きていた厳しい環境のなかで。
ですから、私のベンチャーキャピタル人生のなかでも、あのひとときの時間というのは、ものすごく大きな学びがあった。であるが故に、上場後も含めて、シンバイオ製薬の皆さんが今回の黒字化実現までに歩んできた道のタフネスと、やり遂げた達成感については、非常に共感をします。

質問8.株主の皆さまや患者さまにひと言お願いします。

シンバイオ製薬さんの患者さんの方々と共に歩むという「共創・共生」の志と、わかちあう創薬の喜び、この点にわれわれ、私自身も非常に強く共感をしています。だからこそ、偉大な事業になっていくはずだというふうに考えています。株主の方々におかれましては、紆余曲折、いろいろなことがこれまでも、これからもあるでしょう。そこは、われわれがそうであったように、中長期的な視点でサポートしてほしいなと考えています。

質問9.シンバイオ製薬がグローバルにこぎ出すにあたり、ベンチャーキャピタリストとしてメッセージをお願いします。

私は2012年にシンガポールに自分のベースを移しまして、9年間アジアの地域でのベンチャーキャピタル投資に注力しています。ベンチャーキャピタリスト人生30年のうち、20年が日本、10年がアジアというのが私のキャリアです。それを踏まえて、今、やはり世界のなかで日本をどうとらえるのか、そういったことも、以前にも増して深く考えるようになりました。
他の産業と比べて、バイオテックの領域は、世界中に市場があることは間違いない。もちろん、アメリカの市場というのが一番大きいと、そういう特徴が、他の事業に比べても、非常に際立っている。なおかつ、多額の資金を必要とすると同時に、いったん有用な新薬が承認され、販売に至れば、非常に高い収益力が見込まれ、そして、その需要というのもしっかりとしたものがある。バイオライフサイエンス事業がディフェンシブ(景気に左右されにくい)な事業であり、ベンチャーキャピタルの業界においても、常に全体の10%以上が経済環境の良い、悪いに関わらず、継続して投資領域としてずっと続くというのは、他の産業とはちょっと異なった特徴をもっているといえます。
そういったことを踏まえて、これからのグローバル展開というものを考えたときに、従来のトラディショナルな、ティピカル(一般的)な日本の企業のように、日本と海外とか、そういった単純な分け方とは異なり、もともとシンバイオ製薬は、最初からグローバルを見据えて誕生した会社なので、社内メンバーの方も含めて、もうそういうステレオタイプな会社では全然ないと思います。根っこが違うというのでしょうか。ここがグローバル化に関しては、シンバイオ製薬さんの強みだと思います。
もうひとつ、やはりグローバル展開を見据えたときに、非常に重要なことというのは、その事業に対する共感だと思います。地域、国籍、価値観、そういったものを超越して、そのファームに集う人たちが、同じ目的、大義、ミッションに向かって全力を尽くせるかどうか。プロフェッショナルが集ってひとつの目標に向かうときの一番重要なポイントは、共感する目的です。これって意義があるな、面白いな、人生の1ページをかけるに値する仕事だなと思うから、プロフェッショナルはそのファームに集うと、そういうことだと思います。
われわれのジャフコグループというファームも、アメリカとアジアと日本という3局で今、展開しているわけなのですが、違う価値観を持ったプロフェッショナルが、同じ目的の下に集い、全力を尽くすと、偉大な事業をつくると、そういうときに必要なのは、この「共感し合う目的」だと思っています。