キーパーソン・インタビュー

シンバイオ製薬株式会社 CSO兼トランスレーショナルリサーチ部長 波佐間 正聡
共同研究で得られた多彩な成果を
臨床開発の推進へと繋げてゆきたい
CSO兼トランスレーショナルリサーチ部長
波佐間 正聡

質問1.シンバイオ製薬の共同研究に関して、2023年はどのような成果が得られましたか?

昨年は共同研究にいろいろと進捗があり、学会発表に至る成果がさまざまに得られました。
シンガポール国立がんセンターのジェイソン.Y.チャン先生との共同研究では、NK/T細胞リンパ腫に対するブリンシドフォビルの抗腫瘍活性が確認されていましたが、2023年には、さらにその効果に関するバイオマーカー※が新たにみつかりました。この結果は2023年6月にスイス・ルガーノで行われた国際悪性リンパ腫学会(ICML: International Conference on Malignant Lymphoma)において、ジェイソン.Y.チャン先生により発表されました。学会での発表では、ブリンシドフォビルに対して反応性が異なる細胞株がいくつもあり、その細胞株の遺伝子発現を網羅的に解析することによって、TLE1という遺伝子が見いだされたということと、この遺伝子は、もともとtumor suppressor(がん抑制遺伝子)として知られており、腫瘍を抑制する機能を持った遺伝子なのですが、この遺伝子の発現が低いほどブリンシドフォビルの抗腫瘍効果は強いことがわかってきました。TLE1 の興味深い点は、患者さんの予後が悪いことを予測する予後因子であることもわかり、それも併せて発表しているわけですが、ブリンシドフォビルの可能性として、TLE1の発現が低い患者さん、予後が悪い患者さんに対しての、新たな治療手段になり得る可能性が見いだされ、これを学会で発表できたことが、今回の成果になっていると思います。
一方、NIH(米国国立衛生研究所)傘下のNINDS(国立神経疾患・脳卒中研究所)のジェイコブソン先生との共同研究におきましては、多発性硬化症の患者さんから採取したリンパ球を使って、ブリンシドフォビルの効果を見たところ、EBウイルスがリンパ球の中で増殖するのをブリンシドフォビルがかなり低濃度から抑制するということがわかってきましたし、リンパ球の増殖そのものも抑えるということが判明いたしました。ウイルスが陰性である対照のリンパ腫に対しては、そのような効果が出ないのですが、ウイルス陽性のリンパ球に対しては、増殖抑制が起こるということがわかり、これをジェイコブソン先生のチームが、2023年10月にイタリア・ミラノで行われた多発性硬化症学会(ECTRIMS-ACTRIMS合同学会)において発表しました。
昨年はこういった共同研究の成果が対外的な発表、そして知財権確保に向けた特許出願といった成果に結びついた年だったと思っております。

※バイオマーカー(biomarker):タンパク質や遺伝子などの生体内の物質で、病状の変化や治療効果の指標となるもの。

質問2.カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)との共同研究がありますが、これを開始したきっかけと、現在得られている成果について教えてください。

きっかけはかなりさかのぼるのですが、ブリンシドフォビルをシンバイオが導入するといった局面の前から、グリオブラストーマ(膠芽腫=悪性度の高い脳腫瘍)の悪性化とサイトメガロウイルスが関連していることが報告されていました。われわれとしては、そういったウイルスに関連する腫瘍に興味をもっておりましたし、特にグリオブラストーマはアンメットニーズが非常に高い疾患ですので、ブリンシドフォビルが治療に使える可能性があるのではないかということを、導入前から関係者の間で議論をしておりました。導入後、どこかで共同研究の形で検討するということを考えていたときに、UCSFの小澤先生がシドフォビル(本邦では未承認)を使ったグリオブラストーマへの効果について報告されておりましたので、ブリンシドフォビルを試験することを打診するため、小澤先生にアプローチしました。
小澤先生も非常に興味をもってくださって、ヒト腫瘍異種移植マウスモデルでの試験がすぐに始まり、グリオブラストーマに対するブリンシドフォビルの効果を検討して、いろいろといい結果が得られつつある状況です。

質問3.共同研究先とコミュニケーションをするときには、ブリンシドフォビルのどういったポイントを紹介していますか。

シンバイオ製薬株式会社 CSO兼トランスレーショナルリサーチ部長 波佐間 正聡

ブリンシドフォビルの特徴について紹介していることは、具体的には三点あり、第一にシドフォビルという以前から知られている抗ウイルス薬に脂肪鎖が結合したという構造であり、細胞内の取り込みと安全性の2つの側面が大きく改善している薬剤だという点です。第二に、広範囲の二本鎖DNAウイルスに対する効果が優れているため、それぞれのウイルスに関連した疾患に対する適応の可能性があるということ。三点目は、抗ウイルス効果だけではなく、腫瘍に対する効果も見えてきたので、さらに適応の幅が広がっているということをご紹介しています。

質問4.逆に共同研究や提携の相手方はブリンシドフォビルのどのような点に興味を持ってアプローチされますか。

もともと抗ウイルス薬で知られているので、抗腫瘍効果があるということに対しての、第一印象はイメージできず、どういうメカニズムなのか、という反応ですので、作用機序を説明し、抗ウイルス薬であっても抗腫瘍効果もあるということを理解していただいて、興味をもっていただくというアプローチにしています。

質問5.2023年の5月にアデノウイルスの試験でPOCが認められましたが、共同研究先や提携先との交渉やコミュニケーションに変化はありましたか。

シンバイオ製薬株式会社 CSO兼トランスレーショナルリサーチ部長 波佐間 正聡

面談のリクエストをしたときに、直ちに応じいただけることが多くなりました。特にアデノウイルスに対するPOCに関しては、将来的には承認されて製品となることがイメージできますので、その具体的な議論ができるというメリットはあるかと思います。

※POC(Proof-of-Concept):新薬の研究段階で構想した薬効を実際の非臨床試験や臨床試験で確認することをPOC/プルーフ・オブ・コンセプトという。

質問6.CSOとして、あるいはトランスレーショナルリサーチ部長としての2024年の目標を教えてください。

ブリンシドフォビルの開発においては非臨床に関わる部分や臨床薬理に関するところ、あるいはウイルスに関する解析、そういったところをトランスレーショナルリサーチ部の役割として着実に果たしていくということが、ひとつ目標になりますし、臨床開発の推進に貢献したいと思っています。
また、共同研究に関しても、成果がすでに得られつつあるものが出てきておりますので、それを元にした特許の出願や、対外的な公表、といったものを具体化していきたいと思っています。
CSOとしての役割としては、全体的にサイエンスに関わる部分を常に注意深く見て、シンバイオとしてのクオリティを保つということを心がけていきたいと思っています。

質問7.これから5、6年後、2030年へ向けての目標はいかがでしょうか。

目標といいますか、こうあればいいかなということでいうと、2030年にはおそらく今取り組んでいるいろいろな臨床試験、それから非臨床試験が成果となって、さらに出てくると思っていますので、開発パイプラインだけではなくて、製品パイプライン、製品ラインナップとして見えてくるということが期待できるかと思っています。

質問8.最後に株主の皆さまにメッセージをお願いします。

シンバイオ製薬は非常にチャレンジングな取り組みをしていると私自身も思っていますが、それはやはり、ブリンシドフォビルには多くのポテンシャルがあることが背景にあります。そのポテンシャルを引き出すアプローチ、努力を今、会社を挙げて取り組んでいます。将来的にそういったものが成果、あるいは製品となって現れてくるはずですので、そこをご理解いただけたらと考えています。