悪性リンパ腫のお話
1. 悪性リンパ腫とは
悪性リンパ腫とは、白血球の一種類であるリンパ球ががん化(腫瘍化)し、リンパ節や臓器にかたまり(腫瘤)ができる病気で、全身に分布するリンパ節やリンパ節以外の臓器(節外臓器:胃、腸、甲状腺、脊髄、肺、肝臓、皮膚、眼など)から発生します。悪性リンパ腫は、血液がんの中でも最も多く、日本における年間発生数は10万人に約10人と言われています。発生原因の一部として、ウイルスや細菌感染、慢性炎症刺激などが関係していることが知られていますが、詳しくはよくわかっていません。また、特別な予防法はなく、原則として遺伝もしないと言われています。
2. 悪性リンパ腫の症状について
悪性リンパ腫では、首やわきの下、足のつけ根などのリンパ節の多い部位に、痛みを伴わないしこりがよくみられます。また、原因不明の発熱、体重の減少、ひどい寝汗がみられることもあり、診断する上で特に重要視されています。発生した部位や進行度合によって症状が異なり、病気の進行が緩やかな場合には、症状が見られないことも少なくありません。また、お腹や胸の中に出来るしこりは、血管、脊髄などの臓器を圧迫し、気道閉塞、血流障害、麻痺などの症状があらわれることがあります。
3. 悪性リンパ腫の検査と診断
悪性リンパ腫の検査には大きく分けて、①病気の種類(病型)を決定するための検査、②病気の広がり(病期)を調べる検査、③全身状態を調べる検査の3つがあります。
① 病気の種類(病型)を決定するための検査
悪性リンパ腫であることと、悪性リンパ腫の種類を診断するための検査です。リンパ節や腫瘍の一部を外科的に採取(生検)し、組織を顕微鏡で観察します。リンパ腫の細胞の形や性質を詳しく調べて、病型を診断します(病理診断)。顕微鏡観察の他に、遺伝子の検査を行うこともあります。
また、腫れているリンパ節に針を刺して注射器で吸引する検査方法(細胞診断)が行われることもあります。この検査によって、悪性リンパ腫の診断ができることもありますが、病型の確定診断はできません。したがって、治療まで一刻の猶予もないような特殊な状況を除いては、生検による病理診断が行われます。
② 病気の広がり(病期)を調べる検査
病変の大きさや、どこまで広がっているかを調べるための検査です。病気がどのくらい進行しているかは、治療効果や予後に影響するため、とても重要です。
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胸部X線検査
一般的なレントゲン写真による検査です。 -
超音波(エコー)検査
体内における超音波の反響を利用して、腫瘤の大きさや分布などを調べます。 -
CT検査、MRI検査
CT検査はX線を使って、MRI検査は磁気によって、体の内部を視覚化し、病変の大きさや広がりを調べます。 -
骨髄検査
主に腸骨という腰の骨に針を刺して骨髄液を吸引する骨髄穿刺、あるいは少量の骨髄組織を採取する骨髄生検によって骨髄中の細胞などの検査を行います。 -
消化管内視鏡検査
内視鏡で胃の内部の病変の有無を調べたり、組織の採取を行います。必要に応じて大腸内視鏡検査なども行います。 -
PET検査、ガリウムシンチグラフィー
放射性物質を含む薬剤を注射して、その取り込みの分布を撮影し、全身の癌細胞を検出する検査です。現在ではより有用性の高いPET検査が多く行われるようになってきました。 - 脳脊髄液検査 腰椎の間に細い針を刺し、脊柱管の中にある脳脊髄液を採取します。リンパ腫細胞が脳や脊髄に広がっていることが疑われる場合に行います。
③ 全身状態を調べる検査
全身状態を把握するために、心臓・肺・肝臓・腎臓などの機能や、原因となるウイルス感染の有無、合併症の有無を調べる検査です。血液検査、尿検査、心電図検査、心臓超音波検査、血液ガス分析などが行われます。
多くの検査を行いますが、適切な治療方針を決定し、安全に治療を行う上では欠かすことの出来ない検査です。
4. 悪性リンパ腫の種類について
世界的に用いられているWHO(世界保健機構)分類で悪性リンパ腫は、細胞の性質や発生部位などにより50種類以上に分類されています。これらは大きく「ホジキンリンパ腫」と「非ホジキンリンパ腫」の二つに分類されます。日本では非ホジキンリンパ腫が約90%を占めています。
ホジキンリンパ腫以外の悪性リンパ腫は全て非ホジキンリンパ腫に含まれ、腫瘍化したリンパ球の種類から、B細胞性、T細胞性、NK細胞性などの組織型に分類されます。
5. 悪性リンパ腫のタイプについて
非ホジキンリンパ腫のなかには組織型により、年単位でゆっくり進むタイプ(低悪性度)、月や週単位で進む早く治療した方がいいタイプ(中・高悪性度)などがあります。これらのタイプにより治療法が異なりますので、治療方針を立てる上で重要となります。
6. 病気の広がりについて
悪性リンパ腫は、リンパ節だけではなく、胃や腸、肺などの節外臓器や離れたリンパ節などにも発生することから、病気の広がりの程度(病期)について全身を検査する必要があります。また、リンパ腫に伴う全身症状(B症状)の有無についても調べます。組織型の決定に加え、病期を調べることも治療方針を立てる上で重要となります。
7. 治療方針の決定
悪性リンパ腫の治療法には、主に放射線治療と薬物療法(抗がん剤による治療)があります。これらの治療法は、患者さんの悪性リンパ腫の種類(組織型)、広がり(病期)、病気のタイプ、全身状態によって異なります。これらを正確に把握し、それぞれの患者さんに合った治療法が選択されます。また、患者さん自身も、医師と相談しながら、自分の病気の治療法を十分に理解して、共に治療に臨むことも重要です。