CSRの取り組み
社長対談

第8回

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シンバイオ製薬のような企業が
日本に出てきたことが大きな変化(早稲田大学商学学術院商学部教授:谷本寛治先生) プロフィールはこちら
最初は何も見えない新薬のシーズ
谷本
シンバイオ製薬を社会的責任投資という観点から考えるときの参考になる例として、「北海道グリーンファンド」というNPOがあります。これは、市民による風車を日本で初めて作ったところで、風力発電を運営しています。北海道電力に売電し、その利益で投資家に配分するというモデルです。
この風車は「市民風車」と呼ばれ、総事業費の約8割が市民出資によって賄われています。当初、建設費用2億円は、建設計画をもとに金融機関からの借入を見込んでいましたが、NPOのプロジェクトに億単位の融資をしてくれる金融機関はありません。一般から出資を募ることも容易なことではありません。NPO自体は市場から資金調達できないので、別に会社を併設しました。そこで基本的な枠組みの設計から事業のキャッシュフローの精査、実際の契約書づくりまで、弁護士や関係機関の専門家の人たちの協力を得て、新しい市民出資によるファイナンスモデルを作りました。NPOが中心になって市民から資金を調達するこの仕組みは、その後の地域主導型の再生可能エネルギー事業に活かされています。
市民出資には多くの人が参加し、それ以外に多くの寄付も集まりました。市民風車には地元教育委員会の協力で小学生から愛称を募集し、「はまかぜ」ちゃんと名がつけられています。次世代に、よりよい未来を残したいという思いもこめられています。
吉田
すばらしいお話ですね。
出資した人たちは、どういう思いで応じたのでしょう。
谷本
私たち研究チームが調べたところ、多かったのは地域社会のためという理由でした。もちろん、高いリターンを期待して、と答えた人もいます。
吉田
すべての人が、市民風車のミッションに賛同してという理由ではなかったわけですね。
谷本
北海道電力への売電契約をしているのなら、これは確実だろうということで投資しています。事実、リターンがいいのです。
しかし、追跡調査したところ、投資のリターンがいいからと答えた人たちの多くは理由が変わっていました。どう変わったかというと、例えばメディアが市民風車のことを報道し、日本の初めての市民風車であるとか、その意義が新聞やテレビで流れると、うちのお父さんが投資していることにそんな意味があるのかとかと家族も言い出し、本人もその意義が後から分かってくるようになったのです。
吉田
同じような内容の話を、他の環境関連の商品についても聞いたことがあります。
谷本
そうです。そもそもは省エネだからコストが下がるということで買う人が多いのです。それが、テレビのコマーシャルでもやっていますが、"親子で環境のこと考えるようになりました"ということが、モノを通してメッセージとして伝わっていくことがあります。商品を通してその人の価値観が変わるということを研究したデータもあります。風力発電が1機建ったからといって電力事情が変わるわけではないのですが、人々の意識は変わります。
吉田
そういう意味では、メディアの力も大きいということですね。
谷本
私も企業の社会性といった取材がくれば、たとえ忙しくても、正確に理解してもらわなければいけないという思いから、ていねいに答えるようにしています。メディアの力は大きいです。
もちろん、北海道グリーンファンドの例がそのままシンバイオさんに合うということではありません。
吉田
今のお話、大変興味深くお伺いしました。内容としても非常に近いと思います。市民風車が私どもの事業と共通しているのは、どちらも社会的資本だということです。それに対する投資ということになると、風車は目に見えますが、私どもの場合は、風車のように形あるものではなく、最初は何も見えない薬のシーズでしかありません。薬のシーズとは何かというと、一つの化合物です。それをヒトでテストしたり、動物でテストしたりすることによって、臨床データが出てきます。それこそが価値なのです。臨床データ、動物の試験のデータを得る、ヒトでの有効性のデータをとる。これらはすべて新薬に関する情報であり、それを得るために数百億円を投資して薬を開発するわけですが、もとはただの化合物です。そういったことが積み上がって、承認がとれて薬が生まれる。そこで初めて一つの化合物がひとの命にかかわり、役に立つ"風車"だということがわかるのです。最初から風車だとは見えないし、その有用性が証明されるまでには非常に極めて長い時間と開発投資がかかるという、この目では見えない新薬のシーズとか、極めて長い開発期間とかが風車とは違い辛いところです。