CSRの取り組み
社長対談

第7回

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シンバイオ製薬の社会的責任は、患者さんの思いに寄り添うこと(早稲田大学商学学術院商学部教授:谷本寛治先生) プロフィールはこちら
希少疾病用医薬品の開発が難しい理由
吉田
シンバイオ製薬は、「空白の治療領域」に特化した新薬開発を行っています。この領域では、患者さんのニーズは非常に高いにもかかわらず患者数が少ないため、新薬の開発が見送られ、患者さんが非常に困っています。本来であれば公的な対応があってしかるべき分野ですが、手つかずのままになっているので、私どもが資金を市場から調達して2005年に事業を立ち上げました。その意味で、私どもの事業は社会性を帯びたものと言えるかと思います。
2011年10月に25億円超の資金を市場から調達して大阪証券取引所( JASDAQ )に上場させていただきました。それに伴い株主総会を開いたところ、一部の株主の方から、黒字化を急いで配当するようにとの声をいただきました。もちろん私どももできるだけ早く赤字から脱却すべきだと考えていますが、シンバイオ製薬のような開発集約型の企業の場合、収益を出すまでにそれ相応の時間が必要です。そのことをご理解いただいたうえで投資いただいているものと考えていましたので、そのご発言には正直申し上げて驚きました。私どもの志が十分にご説明できていなかったという思いと、速やかな配当を求められる株主の方との間の溝を改めて認識させられたという二つの驚きでした。
今日は、谷本先生のご専門である「企業の社会的責任(corporate social responsibility; CSR)」の観点から、このようなことをどう考えればいいのかをお伺いしたいと思い、お時間を頂戴しました。
谷本
企業と社会の関係を研究する者として、御社のあり方に非常に関心を持っており、目指すところも素晴らしいと思っています。その上で、市場の現実と、これからの企業のあり方も展望しながら、御社にとっての社会的責任とは何かを考えてみたいと思います。
吉田
よろしくお願いします。
谷本
まずお伺いしたいのは、「空白の治療領域」が発生した原因はどこにあるのかということです。
吉田
時間と投資効率の問題によるところがあるかと思います。つまり、よく言われている「ドラッグラグ」の問題と、製薬企業の収益優先の「ブロックバスター志向、メガファーマ志向」の問題です。
谷本
ドラッグラグについては以前から問題になっていますが、改善されていないのでしょうか。
吉田
ドラッグラグとは、日本と欧米との新薬承認時期の時間差、あるいは海外で新薬が先行販売されているにもかかわらず、国内では販売されていない状態です。主な原因としては、海外と比較して日本での治験着手時期が遅れる、日本での審査期間が長い、日本での治験進捗が遅いなどがあげられます。往々にして患者数の少ない希少疾患領域に多いですね。取り組みの遅い製薬会社側の問題と、硬直化した制度の問題とがあり、優れた治療方法が無いがため、いい新薬を切望している患者さんの前に大きな壁として立ちはだかっています。
世界の売上上位品目についてはドラッグラグの問題は改善の方向に向かっていますが、シンバイオ製薬が扱っているような患者数の少ないオーファンドラッグ(希少疾病用医薬品)については依然、この問題は深刻です。これを解消するため、私たちは患者さんの会や医療関係者のみなさんと一緒になって、行政に強く働きかけています。
谷本
「ブロックバスター志向、メガファーマ志向」の問題は、シンバイオ製薬立ち上げの最大の要因になっていますね。
吉田
そのとおりです。日本には、糖尿病、高血圧、コレステロール値が高い高脂血症といった成人病の患者さんが100万人から300万人くらいおり、高齢化に伴って増え続けています。大手の製薬会社にとっては、そのような大きな治療領域で新薬が当たれば、1000億から2000億円という売上を出すことができます。そのため、患者数が少ない5万人以下、特に1万人以下の治療領域のための研究開発は、会社の体質上どうしてもできないのです。また、これらの治療領域は専門性が高いため、それなりの開発スタッフをそろえる必要があります。このような理由により、結果的に空白の治療領域が生じて、患者さんがとても困っています。
谷本
患者数の大小によって生命が左右されるというのは、残念なことですね。
吉田
特に血液の腫瘍とか自己免疫疾患のような患者数の少ない領域は、大手の製薬会社が避けて通ってきたため取り残されています。同じような患者さんは欧米にもいて、いい新薬が開発され、商品化もされてすでに使われているのに、その空白の治療領域の希少疾患で困っている日本の患者さんは、最先端の治療を受けられない状態が続いています。まさにこれがドラッグラグと言われるものです。
谷本
医薬品開発には、長期にわたる研究開発と巨額の開発費が必要だと思いますが、大手の製薬会社のほうが開発のリスクを規模のメリットで吸収しやすいということもあるのでしょうか。
吉田
ご指摘のとおりでして、医薬品開発のプラットフォーム構築には莫大な初期投資と維持コストの負担がかかり、通常、新薬誕生までには10年以上の期間と1300億円もの開発費用が必要となります。失敗したときの損失も大きいのですが、成功したときの利益も莫大です。その両方の天秤の上に製薬会社のビジネスは成り立っており、母数が大きいほどリスクは吸収しやすいといえます。逆に、患者数が少ないほど採算は取りにくい。成人病などに比べて医療ニーズは非常に高いにもかかわらず、希少疾病用医薬品の研究開発を断念せざるを得ない理由がそこにあります。